ハチドリが消える未来?気候変動がもたらす生態系の連鎖崩壊

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ハチドリ。
その小さな翼は、空気を切り裂く音を立てながら、南米の森の光をすくい上げます。
けれど、その輝きの裏側では、静かに生態系のバランスが崩れつつあるのです。

変わりゆく気候、ずれるリズム

ハチドリは、花と共に生きる鳥です。
開花のタイミングと渡りや繁殖の時期が、わずかにずれただけで生存に影響が出ます。

近年の研究(Wilson et al., PNAS, 2020)によれば、気候変動によってアンデス山脈の花の開花期が平均で約10日早まっていることが報告されています。
しかし、ハチドリの繁殖時期はそれに追いついていません。
つまり、エネルギー源となる花蜜がもっとも必要な時期に存在しないという事態が起きているのです。

自然界の時計が、少しずつずれていく。
そのズレが積み重なることで、種の存続そのものが脅かされていきます。

標高を追いかけて——「山頂の終わり」へ

温暖化が進むと、ハチドリたちは涼しい環境を求めてより高地へ移動します。
エクアドルやペルーの山岳地帯では、すでに一部の高山性ハチドリ(たとえばソードビルドハチドリ Ensifera ensifera)の観察記録が、過去よりも高い標高で報告されています(BirdLife International, 2023)。

けれど、山には終わりがあります。
逃げ場のない山頂に追い込まれた鳥たちは、やがて行き場を失います。

この現象は生態学的には「山頂絶滅リスク(mountain-top extinction risk)」と呼ばれています。
あえて比喩で言うなら、まるで見えない力に押し上げられていく
「山頂トラップ」。
上へ、さらに上へ。
けれどその先には、もう空しか残されていません。

花と鳥の共進化、その繊細な関係

ハチドリと花の関係は、何百万年という時間の中で築かれた共進化の芸術です。
細長い嘴は特定の花の形に合わせて進化し、花はまたその鳥に合わせて形を変えました。

たとえば、コロンビアやエクアドルに生息するソードビルドハチドリは、世界で唯一、嘴が体より長い鳥
その長い嘴は、同じく細い花筒をもつPassiflora mixta(赤いトケイソウ)などから蜜を吸うために最適化されています。

しかし気温上昇により、これらの花が開花する標高帯が上昇し、分布が変化し始めています(Colwell et al., Science, 2008)。
もし花が移動し、鳥が追いつけなければ、進化の絆がほどけることになるのです。

美しさと脆さ——「奇跡の飛翔」が失われる前に

ハチドリの飛翔は、まさに自然の奇跡です。
1秒間に50回以上の羽ばたき。
空中で静止し、後ろ向きにも飛べる。

このエネルギー消費は極めて大きく、彼らの体は絶え間ない栄養補給を必要とします。
つまり、花蜜のわずかな不足も、命取りになるのです。

気候変動による生息地の変化、餌資源の減少、異常気象による繁殖の失敗。
それらが少しずつ重なり、ハチドリたちの未来を蝕んでいます。

希望は、まだある

しかし、すべてが絶望ではありません。
南米では地域住民と研究者が協力し、ハチドリに適した植物を植える「ネクタリー・コリドー(nectary corridor)」の試みが進んでいます(Ecuador Bird Conservation Network, 2022)。
小さな庭の一本の花が、彼らの生き延びる橋になる。

気候変動という巨大な現象の前で、人間ができることは限られています。
それでも、「美しさを知ること」が、最初の一歩になるのです。
知ることは、守ることの始まりだから。

終わりに:羽音の記憶

ハチドリの羽音は、ほんの一瞬しか聞こえません。
けれど、その一瞬に、時間と生命の奇跡が凝縮されています。

その音を、未来の森でも聞けるように。
私たちは、今という時代に何を選ぶのか——問われています。

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WRITERこの記事の著者

hachidori-zukan

hachidori-zukan

【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!