宝石のように輝く羽、空中で静止するホバリング。
「一度でいいから日本でもハチドリを見てみたい」と思う人は多いでしょう。
けれども、実際にハチドリを見られる国は、限られています。
この記事では、「ハチドリは日本にいるのか?」「飼育はできるのか?」という疑問を、過去の展示記録とともに解き明かします。
結論:ハチドリは南北アメリカ大陸だけに生息する固有種
まず最初に結論を伝えると、ハチドリは日本にはいません。
ハチドリは北アメリカのアラスカから、南アメリカのチリ・アルゼンチンにかけて分布する「南北アメリカ大陸の固有種」です。
現在知られている種はおよそ340種。すべてが新大陸のみに生息しています。
なぜ日本にはハチドリがいないのか?
・太平洋を横断する渡りルートを持たないため、自然に日本へ渡来することはありません。
・ハチドリの長いくちばしは、特定の花の形に合わせて進化しており、日本の花とは適合しません。
・多くの種は熱帯・亜熱帯を好み、日本の冬には耐えられない気候条件です。
よくある誤解:「日本でハチドリを見た」という話
日本で「ハチドリを見た」という報告の多くは、実は「オオスカシバ」や「ホウジャク」という蛾の仲間です。
彼らは空中でホバリングしながら花の蜜を吸うため、ハチドリによく似ています。
そのため「日本のハチドリ」として紹介されることもありますが、鳥ではなく昆虫です。
ペットとしての飼育は事実上不可能
あの小さな体で、ハチドリは信じられないほどのエネルギーを消費しています。
そのため、個人で飼育することは、科学的にも法的にも「ほぼ不可能」です。
飼育が難しい理由
・ハチドリは1日に体重の半分以上の蜜を摂取しなければ生きられません。人工的にこれを再現するのは非常に困難です。
・温度、湿度、光のバランスが少しでも崩れると、すぐに体調を崩します。ストレスにも極めて弱い鳥です。
・ほとんどの種は「ワシントン条約(CITES)」の保護対象であり、輸出入や飼育は厳しく制限されています。
一見すると繊細な芸術品のような鳥ですが、その裏には極めて精密な生態システムがあります。
人間の環境では、そのリズムを保てないのです。
日本でハチドリを展示した歴史:橿原市昆虫館と多摩動物公園
実は日本でも、かつてハチドリを飼育展示した施設がありました。
その代表例が「橿原市昆虫館(奈良県)」と「多摩動物公園(東京都)」です。
橿原市昆虫館の挑戦(1991〜2009年)
・1991年、ペルーから26羽を輸入。温室内での飼育を開始。
・栄養豊富な餌や環境制御により繁殖にも成功し、最大で50羽近くに増加。
・しかし、1996年のペルー日本大使公邸人質事件によって輸入が途絶。数は次第に減少。
・2005年に再び27羽を輸入したものの、鳥インフルエンザ対策による隔離で半数が死亡。
・その後の猛暑や国際輸送の規制強化が重なり、2009年ごろに最後の1羽が死亡。展示終了となりました。
担当者は「まるで家族を失ったようだ」と語り、館長も「もう一度あの輝きを」と再挑戦を願っていました。
この記録は、ハチドリの繊細さと、自然との共生の難しさを伝える貴重な証言です。
多摩動物公園「チッチ」の奇跡(1991〜2013年)
・展示されたのはチャムネエメラルドハチドリ。
・「チッチ」と名付けられ、驚異的な11年以上の寿命を記録(野生では3〜5年)。
・2013年3月に展示終了。現在、新たな飼育計画はありません。
静かな展示室のなかで、チッチは多くの来園者の記憶に光を残しました。
結論:ハチドリは「自然の中でこそ生きる」鳥
現在、日本国内でハチドリを展示している施設はありません。
過去の成功例があっても、死亡率の高さやコスト、そして動物福祉の観点から「彼らに最適な環境は故郷の自然である」という結論に至ったためです。
◉ハチドリを見たい人へのおすすめの方法:
1.コスタリカやエクアドルなど、ハチドリの生息地を訪れて観察する
2.高画質の自然ドキュメンタリーで、彼らの飛行と共進化の世界を学ぶ
3.日本の「ハチドリそっくりな蛾(オオスカシバ・ホウジャク)」を観察してみる
橿原市昆虫館や多摩動物公園での挑戦は終わりましたが、その記録は今も私たちに問いかけています。
「美しさを愛すること」と「命を尊重すること」は、決して矛盾しないのだと。
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

