時速200キロを超える飛行能力を持つハチドリは、まさに自然界のアクロバット。
しかし、その体重はわずか3〜4グラム。
5円玉(3.75g)や50円玉(4g)ほどの大きさの命は、森の中では多くの捕食者に狙われています。
それでも彼らが今も生き残っているのは、速さだけでなく、知恵と進化の積み重ねによる巧妙な防御戦略があるからです。
ハチドリを狙う天敵たち
ハチドリを狙う捕食者は、空・地上・水中まで、驚くほど多様です。
鳥類:空のハンター
最も危険なのは、空を支配する猛禽類です。
アカオノスリやコチョウゲンボウ、アメリカチョウゲンボウなどが代表で、時速160キロ以上で急降下し、空中のハチドリを狙います。
また、意外なところではミシシッピトビやヒタキ類も小型のハチドリを捕食することが確認されています。
地上では、オオミチバシリという鳥類が給餌器の下に潜み、飛び出して捕まえるという報告もあります。
さらに、カラスやカケスなどは巣を襲い、ヒナや卵を狙います。
ネコ:最も身近な脅威
北米では、ハチドリの最大の敵はネコだといわれています。
野良猫だけでなく、飼い猫も獲物を追う本能でハチドリを襲うことがあります。
尾羽がなくなった個体を見かけたら、それはネコに襲われて逃げ延びた痕跡かもしれません。
昆虫:意外な小さな捕食者
大型のカマキリ(オオカマキリなど)は、給餌器の周辺で待ち伏せし、前脚でハチドリを掴んで捕食することがあります。
また、オオアオヤンマのような大型のトンボがハチドリを捕らえた例も写真で記録されています。
クモの糸に絡まって動けなくなるケースも報告されており、小さな体には思わぬ罠が潜んでいます。
爬虫類・両生類・魚類:思わぬ待ち伏せ者たち
ヘビやトカゲは巣を襲い、卵やヒナを容易に食べます。
メキシコでは大型トカゲのメキシコトゲオイグアナが給餌器でハチドリを捕食した例も…
ウシガエルの胃の中からハチドリが見つかることもあり、オオクチバスは水面近くを飛ぶハチドリを水中から跳び上がって捕えることが知られています。
ハチドリの捕食回避戦略
天敵に囲まれながらも、ハチドリは進化の中で多層的な防御メカニズムを身につけてきました。
驚異のスピードと敏捷性
ハチドリの第一の武器はその飛行能力です。
通常の飛行速度(時速30〜50キロ)から一気に加速して、ジグザグに飛び回りながら捕食者を振り切ります。
瞬時に後退・上昇・反転できる飛行パターンは、他の鳥には真似できません。
賢い「リスク管理」
彼らは常に空腹との戦いの中で、エネルギー摂取と安全のバランスを取っています。
見通しの悪い場所では、摂食を抑えて警戒を優先するという研究結果もあります(Lima, 1991)。
つまり、ハチドリは環境に応じて「リスクを取るか、安全を取るか」を柔軟に判断しているのです。
尾羽の自動脱落
捕食者に後ろから掴まれそうになると、尾羽が自然に抜け落ちる仕組みを持っています。
これによって命からがら逃げ延びることができ、しかも尾羽は短期間で再生します。進化が生んだ巧妙な非常脱出装置です。
タカが守る「間接的な安全地帯」
興味深いことに、タカがいる地域ではハチドリの巣の生存率が上がることが確認されています(Schilthuizen et al., 2015)。
タカはカケスなど巣を襲う鳥の天敵でもあり、結果的にハチドリに「敵の敵は味方」という安全圏を作り出しているのです。
これは「形質媒介栄養カスケード」と呼ばれる生態学的現象で、自然界の複雑な相互作用の一例です。
人間が作り出す新たな脅威
人間の生活圏もまた、ハチドリにとっては新しい危険地帯になっています。
- 給餌器の設置位置
地上捕食者から守るためには、給餌器を地上1.2メートル以上に吊るし、木の幹や壁面に近づけないことが推奨されます。 - 農薬と昆虫の減少
農薬の使用はハチドリがヒナに与える小昆虫を減らし、栄養不足を招きます。庭の自然環境を保つことが、彼らの子育てを支えることにもつながります。
まとめ:知恵と進化の共演
ハチドリが今も地球で生き続けているのは、単なる速さの賜物ではありません。
環境を読み取り、危険を察知し、時に尾羽を犠牲にしてでも生き延びる——
そのすべてが、小さな体に秘められた進化の知恵です。
重さわずか3〜4グラムの命が、数々の捕食者に囲まれた世界で今も羽ばたき続けるのは、自然界の奇跡そのものといえるでしょう。
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

