南米の南端、アルゼンチンには約36種のハチドリが確認されています。
北米や中米ほど多くはありませんが、南に位置する国でこれだけの多様性を誇るのは驚きです。
特に注目すべきは、ベニイタダキハチドリ(Green-backed firecrown)がティエラ・デル・フエゴまで生息していること。これは、ハチドリの分布として世界で最も南の記録です。
では、なぜこの国で、これほど多くのハチドリが暮らせるのでしょうか。その理由を探っていきましょう。
アルゼンチンの自然が育む多様なハチドリたち
アンデスとユンガス:標高が生む生態の違い
アルゼンチン北西部のアンデス山脈では、標高が上がるごとに気候が変わり、そこに生息するハチドリの種類も変わります。
東側の斜面に広がる「ユンガス」は、湿度の高い熱帯林で、多くのハチドリが集まる地域です。
低地の森、高地の雲霧林、それぞれに異なるハチドリが適応して暮らしています。
パラナ熱帯雨林:花とハチドリの宝庫
北東部のパラナ熱帯雨林(ミシオネスの森とも呼ばれる)は、ブラジルやパラグアイにも広がる大西洋岸の森林です。
ここでは年間2,000ミリを超える雨が降り、色とりどりの花が一年中咲き誇ります。
この花の豊かさが、多くのハチドリを支えているのです。
中央アンデスの山地:オオハチドリの記録
アルゼンチン中央部の山地では、世界最大のハチドリ「オオハチドリ(Giant Hummingbird)」も確認されています。
この鳥は、夏は標高の高い地域に、冬は低地へと移動して暮らします。
2000年代の調査で、この地に生息していることが初めて報告されました。
都市の庭にもハチドリ
首都ブエノスアイレスでも、ハチドリを見ることができます。特によく見られるのは次の3種です。
・アオムネヒメエメラルドハチドリ(Glittering-bellied emerald)
・ノドジロハチドリ(White-throated hummingbird)
・コガネオサファイアハチドリ(Gilded sapphire)
彼らは公園や庭園の花を訪れ、人の暮らしの中に溶け込んでいます。
主なハチドリたち
コガネオサファイアハチドリ(Gilded sapphire)
北部から中部にかけて広く分布。明るいサバンナや庭園でよく見られるハチドリです。
標高200〜1,000mに多く、人工的な環境にも順応しています。
オオハチドリ(Giant Hummingbird)
体長20cm、重さ約20g。ハチドリ科の中で最も大きな種です。
「オオハチドリ属」の唯一の種で、チリやアルゼンチンの高地に生息します。
高山の乾燥地帯を飛び、花の蜜を求めて標高を上下に移動します。
アカフタオハチドリ(Rufous Hummingbird)
長い尾と鮮やかな色が特徴の「アカフタオハチドリ」。
高地の草原で風のように舞う姿が印象的です。
南の果てにハチドリが生きる理由
寒さという限界
ハチドリが南下できる限界を決めるのは「気温」です。
ティエラ・デル・フエゴより南では、花が咲く期間が短く、冬は餌がほとんどありません。
これが、ハチドリ分布の「南の限界線」を形づくっています。
季節と食料の変化
アルゼンチンでは冬に花の数が減るため、ハチドリの一部は季節的な移動を行います。
高山にいた個体が低地へ下りるのは、生き延びるための知恵です。
花とハチドリの共進化
アンデス地域では、ハチドリの長いくちばしに合わせて、赤くて細長い花が進化してきました。
花とハチドリは「お互いに相手の形に合わせて進化した」関係にあります。
都市部では給餌器や庭の花が新しい関係を作っています。
人とハチドリが共に暮らす新しい形が、ここに見られます。
ハチドリたちが直面する危機
・熱帯雨林の伐採と農地開発による生息地の喪失
・気候変動による高山種の生息地の減少
・農薬使用によるヒナの餌となる昆虫の減少
これらの影響で、一部の地域では個体数が減少しています。
未来への希望:守る人、支える森
アルゼンチンでは、ユンガスやミシオネスの森を守るための保護区が整備されています。
また、地域住民が参加するバードウォッチング・ツーリズムも広がっています。
さらに、在来植物を庭に植える活動も進み、ハチドリたちの小さな楽園が各地に生まれつつあります。
まとめ:アルゼンチンのハチドリが教えてくれること
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 確認されている種数 | 約36種 |
| 分布の南限 | ティエラ・デル・フエゴ島(南緯55度付近) |
| 年間降水量(パラナ熱帯雨林) | 約2,000mm |
| 主な高地生息種 | オオハチドリ、アカフタオハチドリ |
| 都市部で見られる種 | アオムネヒメエメラルドハチドリ、ノドジロハチドリ、コガネオサファイアハチドリなど |
| 主な脅威 | 森林伐採、気候変動、農薬 |
| 保全活動 | 保護区・エコツーリズム・在来植物の植栽 |
参考文献
・The Science of Birds. “Hummingbirds: Dazzling and Diverse.”
・von Wehrden, H. (2008). “The Giant Hummingbird (Patagona gigas) in the Mountains of Central Argentina and a Climatic Envelope Model for its Distribution.” The Wilson Journal of Ornithology, 120(3), 648-651.
・One Earth. “The Majestic Patagonian Giant: A Closer Look at the World’s Largest Hummingbird.”
・Wikipedia. “Gilded Sapphire (Hylocharis chrysura).”
・Hummingbird Central. “Hummingbirds of South America.”
・Birds of the World. “Giant Hummingbird (Patagona gigas).”
・Wikipedia. “Hummingbird.”
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

