南米大陸のほぼ中心に位置するボリビアは、地形の起伏が極めて激しく、乾いた高原から熱帯雨林までが一国の中に詰め込まれた「縮図の大陸」と呼ばれる国です。
その変化に富む自然の中で進化してきたのが、ボリビアに生息する83種以上のハチドリたち。
中には、地球上のどこにも存在しない「ボリビア固有のハチドリ」も少なくありません。
ボリビアは、ハチドリが環境にどのように適応し、多様な姿へと分化していくかを理解するうえで、南米で最も重要な場所の一つです。
ここでは、「極限の環境」と「隔離された生態系」が、どのようにハチドリの進化を形作ってきたのかを紐解いていきます。
アンデス高地がもたらす「酸素との闘い」
ボリビアの西部を貫くアンデス山脈は、標高3000〜4000メートルを超える高地が連なり、酸素濃度が平地の半分以下という過酷な世界です。
こうした環境に暮らす高地性ハチドリは、酸素を効率よく取り込むための特殊な代謝機能を発達させています。
彼らの筋肉には、高濃度のミオグロビンが含まれ、わずかな酸素でも羽ばたきを維持できるよう進化しています。
また、夜間の寒冷に対応するために、体温を一時的に下げて代謝を抑える「トーパー(休眠状態)」を利用する種もいます。
これは、エネルギーを極限まで節約しながら生きるための生存術です。
垂直の世界で進化する「標高の階段」
ボリビアのアンデス山脈では、標高が1000メートル変わるごとに気温が約6度下がるといわれます。
この急峻な環境変化が、ハチドリたちの垂直的な分化を促してきました。
2000メートル帯には湿潤な森を好む種が、4000メートル付近には低温乾燥に適応した種が、それぞれ生息しています。
つまり、ボリビアの山を登ることは、ハチドリの進化の時間軸を上へとたどることに等しいのです。
各標高帯で出会うハチドリは、その環境が生み出した「進化の一断面」と言えるでしょう。
ユンガスに息づく「共進化の森」
アンデス山脈の東斜面、ボリビア北部のユンガス地域は、霧をまとった森と熱帯雨林が混じり合う、南米でも特異な場所です。
ここでは、わずか数十キロの間に標高が数千メートルも変化し、植物相が劇的に入れ替わります。
この地の植物とハチドリは、長い年月をかけて「花とくちばしの共進化」を遂げてきました。
特定の花の形状は、ある一種のハチドリのくちばしにぴたりと合うように進化し、逆にハチドリもその花からしか蜜を吸えないように特化していったのです。
このユンガスの森こそ、ボリビアの生態系がいかに繊細な相互依存の上に成り立っているかを象徴する場所なのです。
乾いた高原に生きる「アルティプラーノの奇跡」
南西部に広がるアルティプラーノ高原は、ウユニ塩湖を擁する乾燥地帯。
ここは、ハチドリにとって生存の限界に近い環境です。日中は強烈な日差し、夜は氷点下まで冷え込む極端な気候の中で、ハチドリたちは驚くべき適応を見せています。
彼らは、限られた蜜源を効率よく利用し、飛行や採餌のタイミングを精密に調整しています。
アルティプラーノのハチドリは、まさに「乾いた大地に咲く進化の花」。
この地にしか存在しない種も多く、ボリビアの固有生態系の核心をなしています。
ボリビアのハチドリが語るもの
ボリビアのハチドリは、単に美しい鳥ではありません。
彼らは、「地球上で生命がどこまで環境に適応できるのか」を体現する存在です。
酸素の薄い空、花の少ない乾燥地、急激な標高差。
そのすべてが、ボリビアという国を「進化の実験室」に変えてきました。
彼らの一羽一羽の羽ばたきには、ボリビアという国そのものの逞しさと繊細さが宿っています。
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

