グアテマラ:海抜0mから4,000mの世界に生きるハチドリたち

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グアテマラはメキシコの南に位置し、国土は約10万8890平方キロメートルです。(日本の約1/3:本州+四国くらい)

この小さな国に約38種のハチドリが生息しており、中米でも際立って高い多様性を誇ります。
それは多様な標高と地形が、異なる生態系を生み出しているからです。

ハチドリの進化と分布の背景には、この「地形の変化」が深く関わっています。

グアテマラの中心には、固有種の多い北部メソアメリカ高地があります。
ここは「固有鳥類地域(EBA)」の中心であり、標高0メートルから4000メートルまで、多層的な環境にハチドリが分布しています。

グアテマラの地理とハチドリの暮らし

火山と山脈が種の分化を促進

グアテマラの地形は、活発な火山帯と山脈によって形成されています。
シエラ・マドレ山脈が太平洋岸に連なり、最高峰タフムルコ火山(4220メートル)をはじめ、標高差が極端に大きいのが特徴です。

この標高差が、ハチドリの分化を促進しました。
1500〜3000メートルの中央高地では雲霧林や松樫林が発達し、多くの固有種がこの環境に適応しています。
地形そのものが「進化の舞台」となり、同じ祖先から異なる種が生まれていったのです。

標高の差が、ハチドリの多様性を生み出した!

気候帯による生態系の多様化

グアテマラの気候は標高によって劇的に変わります。
標高の変化は海抜0m〜4,000m!

この標高差が、ハチドリの分布を大きく左右します。

1:熱帯気候(0〜1000メートル)では乾燥林や雨林
2:亜熱帯帯(1000〜2000メートル)では農地と森林が入り交じる
3:温帯帯(2000〜3000メートル)は雲霧林が優勢で、固有種が集中
4:3000メートル以上では冷涼気候となり、植生はまばら

      この多様な気候帯は、異なる花の種類と開花時期を生み、ハチドリの採餌行動や繁殖期を決定づけています。

      気候の変化が「花のリズム」を作り、ハチドリは適応していく

      雲霧林と乾燥林:二つの重要な生態系

      グアテマラでは、雲霧林と熱帯乾燥林という対照的な環境が、ハチドリの生態を支えています。

      雲霧林は標高2000〜3500メートルに限られ、常に霧に包まれた湿潤な森です。
      着生植物が豊富で、花蜜や昆虫を求めるハチドリにとって欠かせない食料源となります。

      この森では、グアテマラコアカヒゲハチドリやガーネットハチドリなど、固有性の高い種が暮らしています。

      一方、モタグア渓谷などの熱帯乾燥林は、乾燥と強光に適応した植物群落が見られます。
      ここではニッケイハチドリが主要な送粉者として生態系を支えています。

      乾燥林は人為的改変で失われつつあり、保全が急務です。

      湿った森も乾いた林も、それぞれにハチドリの「暮らしの形」があります。

      ハチドリと標高勾配:種の交代

      グアテマラでは、標高が変わるごとにハチドリの種が入れ替わります。
      これは「垂直的な生態系分化」の好例です。

      低地(0〜1000メートル)ではニッケイハチドリやシロハラエメラルドハチドリ
      中標高(1000〜2000メートル)ではコウゲンエメラルドハチドリやムラサキケンバネハチドリ
      高地(2000〜3500メートル)ではグアテマラコアカヒゲハチドリやガーネットハチドリが優占します。
      これらの分布は、花の種類・気温・湿度と密接に関係しています。

      標高の変化が、ハチドリたちの「居場所」を自然に分けています。

      グアテマラで一番小さい鳥

      グアテマラコアカヒゲハチドリ(Wine-throated Hummingbird)

      グアテマラを中心に、メキシコ南東部(チアパス州)やホンジュラスまで生息が確認されている、
      非常に小型の山地性ハチドリです。

      グアテマラでは「最も小さな鳥」の一つとされています。

      生態

      この種は標高およそ1,500メートル以上の湿潤な山岳林、特に雲霧林や松樫林の上部・縁辺部を好んで生息します。

      繁殖期にはオスが開けた場所でレック(求愛ディスプレイ)を行い、枝などの露出した場所から鳴き声でメスを引きつけます。

      ハチドリが直面する脅威と保全

      生息地の破壊と気候変動

      グアテマラの熱帯乾燥林の90%以上がすでに失われています(Bustamante Castilloら、2018年)。

      森林の断片化はハチドリの個体群を分断し、繁殖成功率を下げます。
      さらに、気候変動により高地の温度帯が上昇し、山頂付近に生息する種は「逃げ場」を失いつつあります(Ornelasら、2015年)。

      森の減少と気温上昇が、ハチドリの生存空間を急速に奪っています。

      保全と研究の継続

      グアテマラでは重要鳥類生息地(IBA)の指定が進み、エコツーリズムによる観察活動が保全意識を高めています。

      科学者や地元コミュニティの協働によるモニタリングが進み、鳥類目録の更新も継続されています。
      観光と研究を結びつけた地域主導の活動は、地域住民とハチドリとの持続可能的な保全を可能にしていくでしょう。

      まとめ:生命の交差点グアテマラ

      グアテマラの約38種のハチドリは、この国の地形と気候の多様さを映す存在です。

      北米と南米の生物が交わる地理的位置、そして高地特有の雲霧林が、彼らの進化と生態を支えています。
      ハチドリを守ることは、中米の生物多様性ホットスポットを守ることと同義です。

      参考文献

      Bustamante-Castillo, M., et al. (2018). Tropical Conservation Science.
      Eisermann, K. & Avendaño, C. (2018). Bulletin of the British Ornithologists’ Club.
      Ornelas, J. F., et al. (2015). PLOS ONE.

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      WRITERこの記事の著者

      hachidori-zukan

      hachidori-zukan

      【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!