トリニダード・トバゴは「ハチドリの国」として知られます。
約20種類のハチドリが生息していて、この多様性の背景には地質学的な歴史があります。
トリニダード島はわずか1,500年前まで南米大陸と陸続きでした。
そのため、南米の熱帯雨林と同じ生態系を維持しています。
トバゴ島に生息するオジロケンバネハチドリ(White-tailed Sabrewing)は準絶滅危惧種で、この島の自然環境の特殊性を象徴しています。
トリニダード・トバゴの地質学的成り立ち
トリニダード・トバゴは小アンティル諸島の最南端に位置します。
トリニダード島はベネズエラからわずか11kmしか離れていません。
島は南米大陸棚上にあり、かつて大陸と陸続きで、約1,500年前に分離しました。
トバゴ島はさらに古く、約11,000年前に沈降山脈の一部として分離しています。
この最近の地質学的分離により、島は南米大陸の動植物相をそのまま受け継いでいます。
他のカリブ海の火山島とは異なる点です。
トリニダード島には東西に三つの山脈が横たわります。
北部山脈はベネズエラのアンデス山脈の延長で、最高峰はエル・セロ・デル・アリポ(940m)です。
北部山脈は密林に覆われ、中央部や南部はサバンナや低木林が広がります。
この環境の勾配が、多様なハチドリの共存を可能にしました。
トリニダード島の約20種のハチドリ
チャゴシエメラルドハチドリ(Copper-Rumped Hummingbird)は最も普通に見られる種です。
体長は約9cm、体重約3.5gで、脚に白い「靴下」模様があります。
攻撃的で縄張りを守り、庭園や二次林など幅広い環境に適応します。
ムナグロマンゴーハチドリ(Black-throated Mango)は大型種で、体長は11cmから12cmです。オスは喉から腹部が黒くなります。
アオノドマンゴーハチドリ(Green-throated Mango)は喉が輝く緑色で、海岸から山地まで幅広く生息します。
ルビートパーズハチドリ(Ruby-topaz Hummingbird)は小型で美しい渡り鳥です。
オスの頭頂部はルビー色に輝き、毎年南米大陸へ移動し繁殖期に戻ります。
ホオカザリハチドリ(Tufted Coquette)も小型で美しく、オスの体長はわずか6.6cmです。
以上のハチドリを含む、トリニダード島には約18種のハチドリが見られます。
トバゴ島のオジロケンバネハチドリ
オジロケンバネハチドリ(White-tailed Sabrewing)はトバゴ島とベネズエラ北東部にしか生息しません。
体長は約12cm、体重は約10gで島最大のハチドリです。
尾の外側の羽根が白く、英名で「サーベル」の名が付けられました。
オジロケンバネハチドリは、1963年のハリケーン・フローラで生息地が破壊され、一時は絶滅したと考えられました。
しかし1974年に再発見され、現在は数百から1,000羽以上が生息します。
主にメインリッジ森林保護区を中心に分布し、標高300〜520mの山地森林や日陰栽培のコーヒー農園で生活します。ヘリコニアやバナナの花の蜜を吸い、オスは縄張りを守ります。
南米大陸との生態的つながり
トリニダード・トバゴの生物多様性は南米大陸と密接に結びついています。
鳥類は470種以上が記録され、カリブ海の島として極めて多い数です。
植物も約2,500種が確認され、ハチドリの共存を支える豊かな植物相を形成しています。
約20種のハチドリは標高や環境の違いにより棲み分けています。
低木の乾燥林を好む種もいれば、山地の雲霧林に生息する種もいます。
この標高勾配がハチドリの多様性を生んでいます。
現在の環境状況と保全
トリニダード・トバゴの森林被覆率は約64%で、カリブ海の島の中では比較的高い数値です。
しかし森林は分断されており、道路や伐採、農業、焼畑による火災が問題となっています。
メインリッジ森林保護区は世界最古の保護区で、オジロケンバネハチドリの重要な生息地です。
主な脅威は生息地の喪失と分断であり、保護区の資金やスタッフ不足も課題です。
まとめ:大陸の延長が育む豊かなハチドリたち
トリニダード・トバゴの豊かなハチドリたちは、かつて大陸とつながっていた地質学的背景に支えられています。標高勾配による多様な環境が、約20種のハチドリの巧みな棲み分けを可能にしました。
ですが多くの動物たちに共通して、ハチドリたちにも危機が迫っています。
森林破壊や気候変動による脅威に対して、保護区の適切な管理と森林の保全が鍵となります。
「ハチドリの国」の小さな輝きを、未来へつなぎ、いつまでもハチドリたちが羽ばたける世界を願わずにはいられません。
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

