拠水林(きょすいりん)とは

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「拠水林」とは、湿原や草原、サバナのように樹木が生育しにくい環境の中で、河川や小川の流れに沿って帯状に形成された樹林帯のことです。

周囲の土地よりも栄養分が豊富な土壌と、安定した水供給によって成り立ちます。
文字どおり「水を拠り所とする林」という意味をもち、特殊な地形と生態的機能を併せ持つ森林です。

由来・概要

拠水林の成立は、主に「栄養分の供給」と「地盤の安定性」という二つの要因によって説明されます。

たとえば日本の尾瀬ヶ原のような高層湿原では、泥炭層が強酸性かつ貧栄養で、樹木の根が十分に張れません。南米のリャノ(熱帯草原)も同様で、乾季には極度の乾燥が進み、木が育ちにくい環境です。

ところが、これらの地域を流れる河川は、上流からミネラルや有機物を多く含んだ土砂を運びます。
氾濫時にそれらが河岸に堆積し、肥沃で比較的乾いた微高地が形成されることで、周囲とは異なる植生帯が生まれます。

この帯状の森林こそが拠水林です。尾瀬ヶ原ではシラカンバやダケカンバが川沿いに並び、「緑のベルト」を形作っています。

特徴

拠水林は、周囲の環境から浮き上がるように存在し、独特の景観と生態的機能を持ちます。

景観的特徴

湿原や草原の中で川沿いに伸びる細長い林として識別でき、背の高い樹木が立ち並ぶことで景観上のコントラストを生みます。林内は日陰が多く、湿度が高く保たれ、他の場所とは異なる小気候を形成します。

環境への働き

・土壌の安定化
強固な根系が河岸の浸食を防ぎ、土壌の流出を抑えます。これにより河川の形状や流れが保たれます。

・水質の調整
樹木の根や林床が周囲から流れ込む有機物や土砂をろ過し、水質を安定させます。落葉や倒木は微生物や魚類の餌となり、河川生態系を支えます。

・水温の緩和
樹冠が日射を遮ることで、特に熱帯では水温の上昇を抑え、水生生物が過ごしやすい環境を維持します。

ハチドリとの関わり

南米のリャノなどのサバナ地帯では、拠水林は「ギャラリー・フォレスト(拠水林)」として発達しています。これは、ハチドリをはじめ多くの森林性動物にとって生命線となる存在です。

・生息空間の提供
樹木の乏しい草原の中で、拠水林はハチドリが営巣・休息・避難するための安全地帯となります。林があることで、個体群の安定が保たれます。

・蜜源の維持
乾季には草原植物が枯れますが、拠水林内では地下水が豊富なため、着生植物やつる植物が開花を続けます。これにより、ハチドリは一年を通じて蜜を得られます。

・移動経路の確保
広大な草原を渡るハチドリにとって、拠水林はエネルギーを補給しながら移動できる「緑の回廊(エコロジカル・コリドー)」として機能します。

山岳地帯との違い

山岳地帯では、標高差や地形による多様な気候帯が生物多様性を支えています。
一方、拠水林は広大で単調な地形の中に形成され、環境の「異質性」を局所的に生み出す点で対照的です。

つまり、山では垂直方向の多様性が、拠水林では水系に沿った水平方向の多様性が鍵となります。

生態系サービス:生物多様性の保全

拠水林は、周囲の単一的な環境の中で種の多様性を高めるという重要な生態系サービスを提供します。
森林と草原という異なる生態系が接することで「エッジ効果」が生じ、多様な動植物が共存します。

また、乾季や火入れの際には多くの生物の避難場所となり、地域全体の生態系を安定化させます。

ポイント

  • 拠水林は湿原やサバナの河川沿いに形成される帯状の森林
  • 河川の運ぶ土砂と水が成立の鍵
  • ハチドリにとっては営巣・採餌・移動の拠点となる
  • 水質浄化や生物多様性維持などの生態系サービスを担う
  • 山岳地帯とは「多様性の生まれ方」が異なる

関連用語リンク

  • 湿原
  • リャノ
  • ギャラリー・フォレスト(拠水林)
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WRITERこの記事の著者

hachidori-zukan

hachidori-zukan

【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!