人の暮らしが生んだ現代の進化
ガラパゴス諸島のフィンチという鳥が、島ごとに違うくちばしを持っていることを知っていますか?
ダーウィンという科学者が、この発見から「生き物は環境に合わせて進化する」という大発見をしました!
実は今、アメリカのカリフォルニアで、似たような進化が起きています。
その鳥の名前は「アンナハチドリ」
しかもその変化は、たった150年という短い時間で起きていました。
進化のきっかけは、人間が庭に吊るした「ハチドリ用給餌器」。
これは、人間活動が自然界の進化を左右する「人新世(Anthropocene)」を象徴する事例です。
アンナハチドリの拡大と適応
西海岸から北へ広がる分布
アンナハチドリは、かつてカリフォルニア南部に限られていた種です。
オスの喉は金属光沢のあるバラ色で、太陽の角度によって輝きます。
しかし20世紀後半以降、彼らの分布は一気に拡大しました。
現在ではカナダのブリティッシュコロンビアまで到達しています。
他のハチドリが減少傾向にある中で、アンナハチドリの個体数はむしろ増え続けています。
その背景には、人間がもたらした二つの環境変化があります。
ユーカリと給餌器の二重の恩恵
1つ目は、19世紀にカリフォルニアへ導入されたユーカリの木です。
冬にも花を咲かせるため、アンナハチドリは一年を通して蜜を得られるようになりました。
2つ目は、家庭用給餌器の普及です。
1920年代にアメリカの雑誌で紹介されて以来、砂糖水を満たした給餌器が一般家庭に広まりました。こうして人間の庭が、ハチドリにとって新たな「花畑」となったのです。
給餌器が生んだくちばしの進化
標本が語る150年の変化
カリフォルニア大学バークレー校が保管する400体以上の標本を分析したところ、1860年代から現代にかけて、くちばしがわずかに長くなっていることが明らかになりました。
この変化は、単なる地域差ではなく、明確な進化の兆候です。
長いくちばしが選ばれる理由
給餌器の吸い口は、自然の花よりも深い位置に砂糖水があります。
したがって、くちばしが長い個体ほど奥まで舌を伸ばし、効率的に吸うことができます。
結果として、栄養を多く得た個体が繁殖に有利になり、その形質が次世代へと受け継がれていったのです。
科学者たちは、給餌器が多く設置されている地域ほど、くちばしの伸長傾向が強いことを確認しました。
つまり、人間の「観察したい」という好奇心が、ハチドリの体の形そのものを変えたのです。
北の地で起きる「逆進化」
寒冷地では短いくちばしが有利
興味深いことに、分布の北限にあたる寒い地域では、逆にくちばしが短くなる傾向が見られます。
体温調節が鍵を握る
ハチドリは、くちばしから体の熱を放散します。
温暖な地域では熱を逃しやすい長いくちばしが有利ですが、寒冷地では短いほうが体温を保ちやすくなります。
つまり、南では「給餌器による長いくちばしの進化」、北では「寒さに対する短いくちばしの適応」が同時に進んでいるのです。
人新世の象徴としてのハチドリ
人間と共に生き残った鳥
アンナハチドリは、人間がつくった都市環境に驚くほど柔軟に適応しました。
人の手による環境改変を「利用」することで、数を増やした珍しい例です。
進化は今も進行中
この変化は、「進化は過去の出来事」という常識を覆します。
わずか数世代のうちに、私たちの日常行動が野生動物の形を変えています。
アンナハチドリのくちばしは、現代に生きる生物進化の「証拠」であり、人間と自然が織りなす新しい関係の象徴なのです。
まとめ:ハチドリが教えてくれること
・進化は今も進行している
・人の行動が野生動物の形を変える
・柔軟に適応する種が生き残る
次に給餌器を訪れるハチドリを見たら、その小さなくちばしに刻まれた150年の物語を思い出してみてください。
参考文献
Alexandre, et al. (2025). “Supplemental Feeding as a Driver of Population Expansion and Morphological Change in Anna’s Hummingbirds.” Global Change Biology.
Cornwall, W. (2025). “Hummingbird Bills Reveal the Arrival of the Anthropocene.” National Geographic
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

