ハチドリの子育ては、鳥の中でも特に短く、そして劇的です。
卵が孵化してから巣立つまで、わずか18〜22日ほど。ほんの3週間足らずで、ヒナは無防備な赤ちゃんから、自分で飛べる成鳥へと成長します。
驚くことに、このすべてを母親がたった一羽でこなします。
父親は交配が終わると姿を消し、子育てには関わりません。
求愛と交配:母親がパートナーを選ぶ
春、メスが繁殖地に戻ると、オスは華やかな「求愛飛行」を始めます。
垂直に上昇し、時速60〜100キロで急降下。
空中でU字型を描きながら羽音を響かせる姿は、まるで空のダンスのようです。
メスはこのディスプレイを見て、最も活発で力強い飛行を見せるオス、または蜜の多い縄張りを持つオスを選びます。
ハチドリは一夫多妻制で、オスは交配後すぐに別のメスを探します。
巣作り:伸びる巣の秘密
交配を終えたメスは、すぐに巣作りに取りかかります。完成までにかかるのは約5〜13日。
巣の材料は、クモの糸、植物の綿毛、苔、地衣類など。特にクモの糸は伸縮性があり、ヒナが大きくなるにつれて巣も自然に広がります。
また外側を地衣類で覆うことで、木の枝と一体化し、捕食者に見つかりにくくしています。
巣の高さは地上から約1〜10メートルの、風や敵から守られる場所が選ばれます。
卵と孵化:協調するタイミング
メスが産む卵は通常2個。大きさはアズキほどで、重さはわずか0.5グラムほどです。
最初の卵を産んでもすぐには温めず、2個目を産んでから同時に抱卵を始めます。
これにより、2羽のヒナはほぼ同時に孵化し、同じペースで育ちます。
孵化まではおよそ14〜19日。
母親は1時間ごとにわずか5分だけ巣を離れて採食します。
ヒナの成長:20分ごとに食事
生まれたばかりのヒナの重さは約0.6グラム。
まだ目も開かず、母親に完全に頼って生きています。
母親は1時間に約5回、つまり20分おきに給餌を行います。
蜜に小さな虫を混ぜた高栄養の食事を、くちばしを差し込んで与えます。
孵化直後のメスは昼の約86%の時間をヒナの保温に費やしますが、成長とともに採食時間を増やしていきます。
ヒナはたった数日で体重を数倍に増やし、羽毛を整え、わずか3週間で巣立ちの準備を整えます。
巣立ちと父親の不在
ヒナは生後18〜22日で巣を離れます。
巣立ちの時点で、すでに成鳥とほぼ同じ大きさ。
巣立った後も母親は1週間ほど給餌を続けますが、やがてヒナは独立して蜜を探し始めます。
父親が子育てに関わらないのは、鮮やかな羽色が天敵に目立つからだと考えられています。
オスは子育てよりも多くのメスと交配して遺伝子を広げる戦略をとり、結果的に母親がすべてを担う形になりました。
その負担は大きく、母親は自分の体重と同じ量の食物を毎日食べなければなりません。
繁殖を支える環境
繁殖の成功には、蜜源や小さな虫などの食料が豊富であることが欠かせません。
在来植物の多い場所では、蜜だけでなくヒナのタンパク源も確保しやすくなります。
また、地域の気候に合わせて巣の厚さや構造が変化します。寒冷地では壁が厚く、卵を守る断熱性が高くなっています。
まとめ:ハチドリの子育てに見る生命力
ハチドリの繁殖は、たった3週間で命をつなぐための驚くべき挑戦です。
母親は毎日、自分の体重と同じ量の食べ物をとりながら、1時間に5回以上ヒナに給餌し、命を守ります。
この短くも濃密な期間は、自然界の「最小の母」としての知恵と強さを感じさせてくれます。
| 項目 | 数値・期間 |
|---|---|
| 繁殖から巣立ちまで | 約18〜22日 |
| 巣作り期間 | 5〜13日 |
| 卵の数 | 2個 |
| 卵の重さ | 約0.5g |
| ヒナの出生時体重 | 約0.6g |
| 給餌頻度 | 約20分ごと(1時間に5回) |
| 抱卵期間 | 14〜19日 |
| 巣立ち後の給餌期間 | 約1週間 |
| 母鳥の摂食量 | 自分の体重と同量/日 |
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

