ハチドリは、地球上で最も代謝の高い生き物のひとつです。
その小さな体の中では、心臓が毎分500〜1000回、時には1260回にも達する速さで鼓動しています。
これは人間の10倍以上の速さ。なぜここまで速い必要があるのでしょうか?
その理由は、空中で静止し続ける「ホバリング飛行」を支えるための、極限の酸素供給システムにあります。
ハチドリと人間の心拍数の違い:休んでいても全力運転
まずは心拍数の基本データを見てみましょう。
- ハチドリ(安静時):約250回/分
- ハチドリ(活動時):約500〜1000回/分
- ハチドリ(最大):約1260回/分
- 人間(安静時):約60〜100回/分
- 人間(運動時):約150〜180回/分
つまり、ハチドリの「休んでいる時」の心拍数が、人間の「全力疾走中」とほぼ同じ速さです。
ハチドリは、安静状態でも常に高いエネルギーを燃やし続ける生き物なのです。
ホバリングに必要な酸素量:体重の3倍以上のエネルギーを毎日消費
ハチドリは羽ばたきながら空中にとどまるために、胸の筋肉を秒速約80回動かします。
この時の酸素消費量は、体重1kgあたり180〜250ml/分。
体重4gのハチドリでは次のようになります。
- 0.004kg × 180〜250ml/kg/分 = 約0.7〜1.0ml/分
人間(体重70kg)の最大酸素消費量が約3500ml/分であることを考えると、数字だけ見ると人間の方が多いように見えます。
しかし、体の大きさを考慮して「体積あたり」で比べると、ハチドリは人間の約3.5〜4倍もの酸素を消費している計算になります。
それだけ、筋肉を動かし続けるための「燃料」が必要なのです。
心拍出量の計算:小さな心臓がフル稼働しても足りない理由
心臓が1分間に送り出す血液の量を「心拍出量」と言います。
これは「心拍数 × 一回拍出量(1回で送る血液の量)」で決まります。
ハチドリの心臓は体重の約10〜15%(0.4〜0.6g)と、動物の中でも特に大きな割合を占めています。
それでも一回で送れる血液量はわずか0.075ml(推定)ほど。
必要な酸素量(約0.72ml/分)を満たすためには:
- 血液1mlに含まれる酸素:約0.2ml
- 必要な血流量:0.72 ÷ 0.2 = 約3.6ml/分
- 必要な心拍数:3.6 ÷ 0.075 = 毎分480回
つまり、ハチドリの心拍数が毎分500回前後というのは、計算上の必然でもあるのです。
体が小さすぎて、一度に送れる血液が少ないぶん、何度も打たなければならないというわけです。
安静時でも止まらない鼓動:体温維持に必要な燃料
安静時のハチドリも、完全には「休む」ことができません。
その心拍数は約250回/分。
この時の酸素消費量は体重1kgあたり50〜70ml/分で、4gの個体なら約0.24ml/分。
人間が座っている時と比べても、代謝量は約10倍にあたります。
つまり、ハチドリにとって「静かにしている時間」は、すでにエネルギーを全力で燃やし続ける時間なのです。
トルポール:夜だけ訪れる「仮の眠り」
夜間や気温が下がると、ハチドリは「トルポール」という仮眠状態に入ります。
これは一種の省エネモードで、体温と心拍数を一時的に落としてエネルギーを節約します。
- 通常体温:39〜40℃ → トルポール時:32〜35℃
- 代謝率:通常時の約1/10
- 心拍数:毎分約50回(活動時の1/20)
この状態では、酸素消費量も0.07ml/分ほどに減少します。
トルポールは、ハチドリが「夜を生き延びるための戦略」なのです。
心拍数の限界:1260回/分は「生死の境界線」
研究によると、ハチドリが最大限に活動する時の酸素消費量は体重1kgあたり250ml/分に達します。
体重4gでは1ml/分に相当。
必要な血流量は5ml/分で、これを補うための心拍数は約670回/分となります。
しかし実際には、それを大きく上回る1260回/分という記録もあります。
これは、捕食者から逃げる瞬間など、酸素が足りない状態でも一時的に「無酸素運動」をしている可能性を示しています。
言い換えれば、1260回/分というのは、命を懸けた瞬間の鼓動なのです。
疲労のサインは心拍に現れる
逃避直後のハチドリの心拍は、毎分1200回近くに達しますが、
数分後には600〜800回、10分後には300〜400回まで回復します。
この変化は、ハチドリが極限の疲労から少しずつ立ち直っていく過程を示しているのです。
心拍数の変動は、彼らの「疲れ」そのものを映し出す生体リズムなのです。
まとめ:ハチドリと人間の心拍・代謝の比較
| 項目 | ハチドリ | 人間 | 比較・コメント |
|---|---|---|---|
| 安静時の心拍数 | 約250回/分 | 60〜100回/分 | ハチドリの休息状態=人間の全力運動 |
| 活動時の心拍数 | 500〜1000回/分 | 150〜180回/分 | 約6倍速い鼓動 |
| 最大心拍数 | 約1260回/分 | 約200回/分 | 生死を分ける極限の速さ |
| 酸素消費量(ホバリング時) | 約0.7〜1.0ml/分(体重4g) | 約3500ml/分(体重70kg) | 体重比では人間の約3.5〜4倍 |
| 安静時酸素消費量 | 約0.24ml/分 | 約250ml/分 | 安静でも人間の約10倍の代謝 |
| トルポール時心拍数 | 約50回/分 | なし(人間は不可) | 「夜だけ冬眠」で生存維持 |
| 心臓の重さ | 体重の10〜15%(0.4〜0.6g) | 約0.5%(300g) | 体重比で約20倍大きい |
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

