鳥といえば、美しい「さえずり」で仲間とコミュニケーションをとるイメージがありますが、ハチドリの出す音には、他の鳥とは根本的に異なる秘密が隠されています。
ハチドリは、声(鳴管)を使って音を出すだけでなく、羽や尾羽が空気抵抗を受けて生み出す「機械音」を、求愛や威嚇といった重要なコミュニケーションに使っているのです。
今回は、ハチドリの出す音の科学と、その驚くべきコミュニケーションの仕組みについて解説します。
1.声によるコミュニケーション:短く、シンプルな鳴き声
ハチドリも他の鳥と同じように、のどにある「鳴管(めいかん)」という器官を使って声を出します。しかし、彼らの鳴き声は、ウグイスやカナリアのような美しい「さえずり」とは大きく異なります。
短い「チッ」「ジッ」という鳴き声
ハチドリの鳴き声はほとんどが「チッ」「ジッ」「キッ」といった、短くシンプルな音です。
| 鳴き声の種類 | 主な用途 | 鳴き方の特徴 |
|---|---|---|
| 連絡鳴き | 採食中の仲間同士の簡単な位置確認 | 短い「チッ」という音を1〜2回 |
| 威嚇鳴き | 縄張りへの侵入者への警告 | 荒々しい「ジッ」や「キッ」という音を連発 |
| ヒナの鳴き声 | 巣の中で親鳥に餌をねだる | 高く連続的な音 |
声が発達しなかった理由
ハチドリが複雑なさえずりを発達させなかった理由には、超高速な生活環境があります。
・ホバリング音の存在:飛行中、毎秒数十回の羽ばたきで「ブーン」という大きな音が出るため、複雑な歌声は聞き取りにくい。
・視覚の優先:ハチドリは音よりも視覚(鮮やかな羽色や飛行の動き)を使ったコミュニケーションを優先して進化した。
2.飛行が生み出す「機械音」の科学
ハチドリのコミュニケーションにおいて、最もユニークで重要なのが、羽ばたきや飛行動作によって生まれる「機械音」です。
羽ばたき音の役割
・存在の誇示:羽ばたき音の周波数や大きさは、種や体の大きさ、性別によって異なります。オスは羽の形を少し変えることで、より大きく特徴的な音を出し、自分の存在をアピールします。
・周波数と体のサイズ:体が小さいほど羽ばたきの回数が多く、高い音が出ます。相手はこの音を聞くことで、「自分より大きいか小さいか」を判断できます。
尾羽が奏でる「特別な音」
特にオスが求愛や縄張り争いの際に、尾羽を使って「ピーッ」「ブザー音」といった高周波音を発生させます。
・急降下ディスプレイ:オスは急降下後に尾羽を広げたり閉じたりする。
・音の発生源:尾羽の羽軸や羽の隙間に空気が当たることで特定の音が発生。
・進化の産物:この音は単なる風切り音ではなく、尾羽の形状に依存し、オスの遺伝的資質や健康状態を示すサインになります。
科学的研究により、ハチドリは翼音と尾羽音を使い分け、「私はここにいる」「私は強い」「私と子孫を残そう」といった複雑な情報を伝えていることがわかっています。
3.コミュニケーションの「三位一体」
ハチドリのコミュニケーションは、声、機械音、そして行動の三つの要素が組み合わさって成り立っています。
| 手段 | 伝える情報 | 受け手への影響 |
|---|---|---|
| 声(チッ、ジッ) | 警告、位置情報 | 瞬間的な反応(避難、威嚇) |
| 構造色(羽の色) | 性別、健康状態、種 | 視覚的判断(求愛相手選択) |
| 機械音(ブーン、ピーッ) | 縄張り主のサイズ、飛行能力、求愛アピール | 縄張り侵入者を追い払い、メスを惹きつける |
ハチドリは超高速で移動し、360度近い視野を持つため、「見る」と「聞く」を同時に行い、情報を瞬時に統合します。
ハチドリにとってコミュニケーションは、「どれだけ大きな音を出すか」ではなく、「いかに短時間で最も効果的にメッセージを伝えるか」という、エネルギー効率と生存競争に根ざした洗練された戦略なのです。
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

