「適応放散」とは、「一種類の共通の祖先から、多様な環境や生活様式(ニッチ)に適応した新しい種が次々に分かれて生まれる現象」のことです。
由来・概要
適応放散は、生態学において「種分化(しゅぶんか)」の最も劇的な形で知られています。
発生の条件
適応放散は、主に次の二つの条件が揃った場所で起こります。
一つ目は、生物が存在しない、あるいは競争相手がいない「新しい生息域」が生まれた時です。
例えば、火山活動でできた新しい島などが該当します。
二つ目は、資源(食べ物、生息場所など)の利用法に「空き」がある時、祖先種から生まれた子孫が、その空きを埋めるように様々な形や機能に特化していく時です。
ダーウィンフィンチの例
適応放散の最も有名な事例は、「ガラパゴス諸島」に生息する「ダーウィンフィンチ」です。
もともとは南米大陸から渡ってきた一種類の鳥が祖先ですが、それぞれの島や環境に応じて、「食べるもの」を変え、それに合わせて「くちばしの形」が多様に分化しました。
特徴
適応放散の最もわかりやすい特徴は、「祖先種にはなかった多様な形態」が生まれることです。
形態的な多様化
新しい種は、それぞれの環境で最も効率よく生きるために、「体の一部を特化」させます。
上述したダーウィンフィンチのくちばしは、「種子を割るための太く硬い形」や、「昆虫を捕らえるための細く鋭い形」などに分かれています。
棲み分け(すみわけ)による共存
多様な形態に分かれることで、種同士は「同じ資源を奪い合う「種間競争」」を避けられるようになります。これが「棲み分け」です。
例えば、深い花から蜜を採ることに特化した鳥と、木の種を食べることに特化した鳥は、「競争せず」に同じ島で共存できます。
適応放散は、多くの種が共存する「生物多様性」の高い生態系を作り出す原動力となります。
ハチドリとの関わり
ハチドリは、新世界(南北アメリカ大陸)において、「花の蜜」という資源を利用するために極度に特化し、「適応放散の極致」を示した鳥類の一つです。
くちばしの多様性と共進化
ハチドリは約366種もの多様な種に分かれており、その形態の多様性は「くちばしと舌の形態」に最もよく表れています。
- 長く湾曲したくちばしを持つ種は、「深い筒状の花」に特化して「蜜源(みつげん)」を独占し、他の種との競争を避けます。
- ハチドリの適応放散は、彼らが受粉を担う植物の適応放散と共に進化してきました。
ハチドリが特定の蜜源に特化するほど、その蜜源植物もハチドリ以外に蜜を盗まれないように進化し、相互に多様性を高めました。
用語深掘り:生態的ニッチの分化
適応放散を理解する上で重要なのが「生態的ニッチ(Ecological Niche)」という概念です。
ニッチの分化が多様性を生む
「生態的ニッチ」とは、生物の役割・資源の利用方法・生活スタイルといった種の生活すべての中に生まれる誰も利用していない資源の事です。
適応放散は、競争のない新しい環境で、利用可能な「空いているニッチ」が多いときに起こります。
祖先種から分かれた子孫は、競争を避けるために、互いにニッチをずらして(ニッチの分化)利用し始めます。
例えば、ある種の鳥が木の上で昆虫を食べるニッチを選び、別の種が地面で種子を食べるニッチを選べば、「資源の利用が重ならない」ため、多くの種が平和的に共存できます。
このニッチの分化こそが、結果として「生物多様性」を生み出すのです。
ポイント
- 「適応放散」は、共通の祖先から短期間で「多様な種が分かれる現象」です。
- 「新しい生息域」や「空いている生態的ニッチ」の存在が主な発生条件です。
- 結果として「形態の多様化」と「棲み分け」が起こり、激しい競争が回避されます。
- ハチドリの「くちばしの多様性」は、適応放散と「共進化」の極めて良い例です。
- 「生態的ニッチの分化」が、多様な種が共存できる理由です。
関連用語リンク
- 棲み分け(すみわけ)
- 種間競争(しゅかんきょうそう)
- 受粉(じゅふん)
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

