分子系統学とは、生き物の体の中にある「設計図(DNA)」や「部品(タンパク質)」を調べて、生き物がどんな順番で生まれてきたのかを明らかにする学問です。
これは、昔ながらの「骨の形」や「見た目」を比べるだけでなく、もっと細かく「生き物の秘密のデータ」を使って、親戚関係を探る研究です。
由来・概要
分子系統学は、生き物の設計図であるDNAやタンパク質の研究が進み、コンピューターが発達したことで大きく進歩しました。
秘密の設計図を比べる
地球上のすべての生き物は、大昔にいた「一つの共通の祖先」から生まれたと考えられています。
生き物が進化していく中で、DNAの設計図には少しずつ間違い(変異)が起こり、その配列が変わっていきます。
この「設計図の違いの大きさ」を比べることで、生き物どうしがどれくらい近い親戚なのかがわかります。
- 家系図(系統樹): 研究でわかった親戚関係は、たいてい「系統樹」という木の枝のような図で表されます。この枝分かれを見ることで、どの生き物がいつ、どの祖先から分かれていったのか、という進化の歴史が読み取れます。
- 時間の推定(分子時計): DNAの変化がほぼ決まった速さで起こっていると仮定すると、設計図の違いから、生き物が何年前に枝分かれしたのかという「時間」を推定することもできます。
特徴
分子系統学は、見た目だけではわからなかった、生き物の本当の関係を突き止める力があります。
見た目に惑わされない探偵
生き物は、住んでいる場所が同じだと、遠い親戚でも似たような体の形になることがあります。
これを「収斂進化(しゅうれんしんか)」といいます。
例えば、泳ぐのが得意な魚とイルカは似た形をしていますが、イルカは人間と同じ哺乳類です。
従来の見た目だけの研究では、この「そっくりだけど親戚ではない」という間違いが起こりがちでした。
しかし、分子系統学は、見た目が似ていても、設計図が違えば遠い親戚だと正確に見分けられます。
客観的な証拠
DNAの配列データは、研究者の主観が入る余地が少ない、客観的な証拠です。
この確かな証拠を使って調べることで、より正確な進化の歴史を描くことができます。
ハチドリとの関わり
分子系統学は、ハチドリという鳥の親戚関係が、どのように生まれたのかを解き明かすのにとても役立ちました。
大進化の始まりを解明
世界にいる約366種類ものハチドリは、見た目や花の利用の仕方がバラバラで、従来の研究では、彼らの本当の家系図を作るのが難しかったです。
しかし、DNAを詳しく調べる分子系統学の分析によって、ハチドリの祖先は南米のアンデス山脈で進化を始め、その後、山脈を拠点にして爆発的に種類を増やしていった(適応放散)ことがわかりました。
グループ分けのルール
分子系統学のおかげで、ハチドリは九つの大きなグループに分類し直されました。
それぞれのグループが、どのように「特定の地域に閉じ込められたこと」や「特定の花の蜜に特化したこと(共進化)」によって進化してきたのか、詳しい道筋が示されたのです。
用語深掘り:データを調べる方法
分子系統樹を作るためには、コンピューターを使った高度な計算が必要です。
主な解析方法
系統樹を作成する主な方法には、計算が速い「近隣結合法」や、統計の考え方を使って最も正しい系統樹を探し出す「最尤法(さいゆうほう)」などがあります。
これらの方法は、何万、何億というDNAの文字(塩基配列)データを、高性能なコンピューターを使って解析し、生き物の進化の歴史を解き明かしています。
ポイント
- 分子系統学は、DNAなどの「設計図」を比べて、生き物の「進化の歴史」を調べる学問
- 系統樹という図で親戚関係を表します
- 見た目が似ていても、設計図が違えば遠い親戚だと正確に見分けられます
- ハチドリの種類の多さが、アンデス山脈での進化と適応放散によるものであることがわかりました
- コンピューターを使った複雑な解析方法が用いられています
関連用語リンク
- 適応放散(てきおうほうさん)
- 系統樹(けいとうじゅ)
- 共進化(きょうしんか)
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

