「ロス・ネバドス国立自然公園(Parque Nacional Natural Los Nevados)」は、コロンビア中部アンデス山脈に位置する国立自然保護区です。
スペイン語で「雪をいただく山々」を意味し、標高5,000メートル級の火山と氷河、そして独特の高山草原「パラモ」を有しています。
この地域は、高地環境に適応したハチドリの進化の鍵を探る上で、世界的にも重要な地域です。
由来・概要
ロス・ネバドスの起源は、プレートテクトニクスに基づく地球内部の運動にあります。
太平洋側のナスカプレートが南米プレートの下に沈み込むことで、コルディエラ・セントラル(中央山脈)が隆起し、現在の地形が形成されました。
公園はカルダス県、キンディオ県、リサラルダ県、トリマ県の4県にまたがり、活動中のネバド・デル・ルイス火山を中心に広がっています。
その火山群は地熱と氷河が共存する稀有な環境を作り出し、周囲の気候や水系にも大きな影響を与えています。
また、公園は「コーヒー文化の景観」として世界遺産に登録された地域に隣接しています。
この高地の冷涼な気候と豊富な水は、コーヒー栽培をはじめとする地域農業を支える重要な資源です。
自然環境と人間の営みが共存する、典型的なアンデスの文化生態系といえます。
特徴
ロス・ネバドスでは、標高2,600〜5,300メートルの間で生態系が垂直に変化し、熱帯林から氷雪地帯までが短い距離に並んでいます。
その中でも最も特徴的なのが、森林限界の上に広がるパラモ生態系です。
パラモは昼夜の気温差が大きく、霧が頻繁に発生する冷涼湿潤な環境で、フライレホンなどが優占します。
この植物群落は、葉に水をため、空気中の湿気を吸収するなど、高山の厳しい環境に適応した構造を持っています。
また、公園内では火山活動と氷河作用が地形を形づくってきました。
氷河の融解でできたオトゥン湖のような高山湖や、氷河に削られたU字谷が多く見られます。
しかし、近年は温暖化による氷河の後退が進み、残存する氷河はルイス山、トリマ山、サンタ・イサベル山の三峰に限られています。
この変化は、公園内外の水資源に深刻な影響を与えると懸念されています。
ハチドリとの関わり
ロス・ネバドスは、高地性ハチドリの進化を理解するうえで極めて重要な地域です。
隆起によって生まれた急峻な標高差が、ハチドリの生息環境を垂直に分断し、各地域で異なる適応を促しました。
その結果、この地域には固有の高山種が多く見られます。
代表的なのが「キイロヘルメットハチドリ(Buffy Helmetcrest / Oxypogon stuebelii)」です。
この種はロス・ネバドスのみに生息する固有種で、寒冷な環境でも効率的に蜜を摂取できるよう特化しています。
体毛は厚く、代謝も高地に合わせて調整されており、高酸素消費に耐える生理機能を備えています。
また、彼らはパラモ植物の花粉媒介者としても欠かせない存在であり、特定の花との共進化関係が見られます。
生態系サービス:水資源の供給と地域経済の基盤
ロス・ネバドスの生態系は、コロンビアの社会と経済に直接的な恩恵をもたらしています。
氷河とパラモの湿地は巨大な天然の貯水槽のように働き、降水を吸収・貯留しながらゆっくりと放出します。
これにより、カウカ川やマグダレナ川の水量が安定し、約200万人の生活用水や農業用水を支えています。
この調整機能は、洪水や渇水を緩和する「調整サービス」として地域社会を守っています。
さらに、この水資源はコロンビア経済の中核をなすコーヒーや農作物の生産にも直結しています。
つまりロス・ネバドスは、生物多様性の保全地であると同時に、人間社会の持続可能性を支える基盤でもあります。
ポイント
ロス・ネバドスはコロンビア中部のアンデスにある火山・氷河地帯です。
標高差が大きく、パラモ生態系が公園の約80%を占めます。
固有種キイロヘルメットハチドリの唯一の生息地として知られます。
氷河や湿地は水を蓄え、約200万人の水源を支えています。
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hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

