日中、信じられないほどの速さで飛び回るハチドリ。
その代謝は鳥類の中でも群を抜いて高く、まさに「小さなエンジン」といえる存在です。
しかし夜になると、一転して動きを止め、まるで眠るように静かになります。
実はそのとき、ハチドリの体は「トーパー(Torpor)」という一時的な休眠状態に入っているのです。
夜の試練:小さな体を支えるエネルギーの限界
ハチドリの体温は約39〜40℃と高く、体が小さいぶん熱が逃げやすい構造をしています。
夜の冷え込みの中でこれを維持するのは非常に大変です。
・もし体温を保ったまま一晩を過ごそうとすれば、日中に蓄えたエネルギーの約80〜90%を体温維持だけで使い切ってしまいます。
・エネルギーが尽きれば、翌朝を迎える前に飢え死ぬ危険もあります。
この危機を避けるために、ハチドリは「代謝を一時的に止める」という大胆な方法を選びました。
それがトーパーです。
トーパーの仕組み:体温も鼓動も止まるほどの省エネモード
トーパー中のハチドリは、体温を大幅に下げて代謝を最小限にします。
・通常体温:39〜40℃
・トーパー時の体温:10〜20℃前後(外気温に近づく)
・代謝率:通常の1/10以下
・心拍数:通常250〜500回/分 → トーパー時50〜100回/分
・呼吸:数分に1回になることもある
この状態は、外見上ほとんど動かず「仮死」に近いように見えます。
しかし内部では、生命維持のための最低限の活動が続いています。
トーパーから目覚める朝:筋肉が生む再起動の熱
夜明けとともに、ハチドリは「再起動」のように体を温め直します。
そのプロセスには、膨大なエネルギーが必要です。
・体温上昇:10〜20℃ → 39〜40℃まで上げる
・必要時間:15分〜1時間
・消費エネルギー:15〜30分間のホバリングに相当
この時に使うのが「シバリング(shivering)」という筋肉の震え。
胸の筋肉を微細に動かして発熱し、体を温めていきます。
目覚めた直後のハチドリはすぐに花へ向かい、蜜を吸ってエネルギーを補給します。
特に縄張りをもつ個体は、自分の花にすぐアクセスできるため、生存上大きな優位を持ちます。
まとめ:トーパーが生んだ生命の知恵
トーパーは、ハチドリが「小さな体で生きるため」に進化させた究極のエネルギー管理術です。
昼は超高速で活動し、夜は生命を守るためにほぼ停止する——この極端なバランスが、彼らの生存を支えています。
ハチドリと人間の比較
| 項目 | ハチドリ(通常時) | ハチドリ(トーパー時) | 人間(参考) |
|---|---|---|---|
| 体温 | 約39〜40℃ | 約10〜20℃ | 約36〜37℃ |
| 代謝率 | 100%(基準) | 約10%以下 | 約100%(基準) |
| 心拍数 | 250〜500回/分 | 50〜100回/分 | 約60〜100回/分 |
| 呼吸頻度 | 毎秒2〜3回 | 数分に1回 | 約12〜20回/分 |
| エネルギー消費(夜間) | 80〜90%を体温維持に使用 | 約10%未満 | 約10〜15%(睡眠時) |
| 体温上昇に必要な時間 | 約15〜60分 | ― | ― |
WRITERこの記事の著者
hachidori-zukan
【野鳥観察が人生の目的】憧れのハチドリに会いたくて、図鑑サイトを作りました!ハチドリに会える度に、充実していくであろう当サイト。「ハチドリを知るなら当サイト!」って言っていただけるようなサイトを作っていきますので、見守っていただけると、幸いです!

